まるで是枝裕和監督の映画に出てきそうな団地の商店街。その一角で、クラフトビールが造られている。
東京都日野市の百草団地。昭和の面影を色濃く残すショッピングセンターにあるのが、「10ants Brewing/GLaSS HOPPER BREW TEAM 日野醸造所」です。
年季の入った建物、赤茶色のタイル張りの床、ひっそりとしたアーケード。その一角にクラフトビールの瓶がずらりと並んだ冷蔵庫があります。
しかも、醸造家によると、樽詰めしていないビールでも、ここなら瓶で飲めるものがあるのだとか。
さらに、フードの持ち込みも自由。近くのお肉屋さんでコロッケを買ったり、ラーメン屋さんで餃子を調達したりして、ビールと一緒に楽しむこともできます。
これは面白い!
平日の午後1時ごろ、そんな日野醸造所を訪ねてみました。
百草団地の商店街は、まるで映画のロケ地
百草団地ショッピングセンターの入口には、「MOGUSADANCHI S.C.」と書かれたアーチがあります。
その奥に広がるのは、昭和の空気を残したアーケード型の商店街。

低い建物に赤茶色のタイル張りの床。昔ながらの商店が並び、その奥には団地の住棟が見えます。
訪れたのは平日の昼間でしたが、人通りはまばら。シャッターを下ろした店舗も目につきました。
この風景を見て、思い浮かんだのが是枝裕和監督の映画「海よりもまだ深く」です。
日常の何気ない風景の中に、そこで暮らしてきた人たちの時間が感じられる。そんな場所でした。
もちろん、平日の昼間に訪れただけで、商店街全体の活気を判断することはできません。
ただ、観光地や駅前の繁華街にあるクラフトビール店とは、明らかに違う空気が流れていました。
そして、この静かな商店街の一角にあるのが、今回のお目当ての日野醸造所です。
なぜ、こんな場所にクラフトビール醸造所が?
店主が気さくな方だったので、気になっていたことを聞いてみました。
なぜ、百草団地に醸造所を構えたのでしょうか。
話を聞くと、その理由は実に現実的でした。
醸造設備をワンフロアに設置できる広さがあり、なおかつ賃料がリーズナブルな物件を探していたところ、この場所にたどり着いたのだそうです。
なるほど。
醸造所を開くには、それなりのスペースが必要です。設備を置けるだけでなく、継続して経営できる賃料であることも重要。
そう考えると、団地の商店街という立地は、意外と理にかなっているのかもしれません。
てっきり、団地の活性化を目指して出店したのかと思っていましたが、実際には醸造に適した物件を探した結果だったというのが面白い。
しかも、その結果として、クラフトビールを目当てに私のような人間が百草団地までやって来る。
地域に人を呼ぶことを目的にしなくても、結果的に人が訪れる理由を生み出しているわけです。
私もその一人でした。

高齢化が進む団地と、新しい取り組み
店主によると、百草団地では高齢化が進み、飲食店の閉店や移転も少なくないとのこと。
確かに訪問時の商店街には、少し寂しい雰囲気もありました。
一方で、百草団地は変化のない場所というわけでもありません。
UR都市機構と無印良品による「MUJI×UR」のリノベーションも行われています。
団地の入口付近にはローソンストア100もあり、日々の暮らしを支える店舗も営業しています。
昔ながらの団地の風景を残しながら、新しい住まい方や商いも生まれている。
日野醸造所も、そんな変化の一つなのかもしれません。
10ants BrewingとGLaSS HOPPER BREW TEAM。2つのブランドを醸造
日野醸造所では、主に2つのブランドのクラフトビールが造られています。
一つが「10ants Brewing」。
こちらはIPAを中心に展開するブランドで、ホップの香りや苦味を追求したビールが特徴です。
もう一つが「GLaSS HOPPER BREW TEAM」。
多摩地域の農産物や食材を取り入れた、地元密着型のビールブランドです。
店頭の冷蔵庫には、両ブランドの瓶ビールがずらり。
稲城産アップルミントを使ったビール、府中産のさつまいもを使ったスタウト、グアバを使ったIPAなど、個性的な銘柄が並んでいました。
中でも気になったのが、醸造家から聞いたこんな話。
「樽に詰めていないビールでも、ここなら瓶で飲めるものがある」
これは面白い!
クラフトビール店で飲める銘柄は、基本的にはその店が仕入れた樽や瓶のラインナップに左右されます。
でも、ここは醸造所。
樽生として流通していないビールにも出会える可能性があるのです。
わざわざ醸造所まで足を運ぶ理由が、ちゃんとあるわけですね。
ちなみに、聖蹟桜ヶ丘にあるクラフトビール専門店「BEER BULK J」で扱う10ants Brewingのビールも、こちらで醸造されているそうです。

タップはなく、冷蔵庫の瓶ビールを選んで飲む
一般的なブルーパブを想像して訪れると、少し意外に感じるかもしれません。
訪問時の日野醸造所には、ドラフトビールのタップはありませんでした。
店頭の冷蔵庫から好きな瓶ビールを選び、その場で飲むスタイルです。

瓶は330ml。
冷蔵庫には770円、880円、990円などの価格表示がありました。

店の前には木製のテーブルと椅子が並び、立ち飲みも可能。
アーケードには屋根があるので、屋外に近い開放感がありながら、雨を直接気にせず過ごせるのもいいところです。

訪問時はほかにお客さんがおらず、貸し切り状態。
店主とゆっくり話しながらビールを楽しめました。
樽生を飲みたいなら、隣のフトランテへ

ちなみに、すぐ隣には「futollante(フトランテ)」という飲食店があります。

こちらでは日野醸造所で造られた樽生ビールも提供されているそう。
つまり、瓶ビールを楽しむなら醸造所、樽生を飲みたいなら隣のフトランテという選択肢があります。
同じ商店街で、瓶とドラフトの両方を楽しめるのはうれしいですね。
フード持ち込み自由!商店街のコロッケや餃子をビールのお供に
日野醸造所のもう一つの魅力が、フードの持ち込みが自由なこと。
しかも、百草団地の商店街には、ビールのお供を調達できるお店があります。
例えば、近くの精肉店「肉の健雄」。
昔ながらのお肉屋さんで、手造りコロッケやメンチカツ、唐揚げなどを販売しています。
揚げたてのコロッケを買って、冷えたクラフトビールと一緒に楽しむ。
想像しただけで美味しそうです。
さらに、商店街には「らーめんぎょうざ治(はる)らいおん百草店」もあります。
こちらでは「百草名物餃子」を販売。
ホップの苦味がしっかりしたIPAと餃子の組み合わせも、なかなか魅力的ではないでしょうか。
今回はフードを食べませんでしたが、次に訪れるなら、商店街でコロッケや餃子を調達してからビールを楽しみたいところ。
そして面白いのが、この持ち込みスタイルなら、醸造所だけでなく商店街のほかのお店にも立ち寄る理由が生まれることです。
ビールを飲みに来た人がお肉屋さんでコロッケを買い、餃子を買い、また醸造所に戻ってくる。
そんな楽しみ方ができるのは、商店街にあるブルワリーだからこそ。
クラフトビールと昔ながらの商店街のお惣菜。
百草団地ならではの、ちょっと贅沢な昼飲みができそうです。
実飲レビュー|今回飲んだ2種類のクラフトビール
① Inagi Megumint(稲城メグミント)

GLaSS HOPPER BREW TEAM/アップルミント・ペールエール/ABV 5.0%
最初に飲んだのは、稲城産のアップルミントを使った「Inagi Megumint」。

ラベルには鮮やかな緑色のミントが描かれています。
グラスに注ぐと、やや赤みを帯びた琥珀色。
ひと口飲むと、確かにミントの風味が感じられます。
それも、歯磨き粉のような強烈なミントではなく、爽やかな清涼感。
さらに青リンゴを思わせる風味もあり、これがなかなか美味しい。
とてもドリンカブルで、するすると飲めてしまいます。
アップルミントという素材の名前から想像する味わいと、実際のビールの風味がきちんとつながっているのが面白い。
地元の農産物を使ったビールというと、話題性が先行するものもありますが、こちらは素直に飲みやすく、もう一杯飲みたくなる味でした。
② THE Fourth Dimension Blue Label

10ants Brewing/セッションIPA/ABV 4.5%/IBU 50
続いて飲んだのが、10ants Brewingの「THE Fourth Dimension Blue Label」。

セッションIPAということで、軽快で飲みやすいビールを想像していました。
ところが飲んでみると、後味が結構苦い。
おっ、セッションの割には苦いぞ。
飲み始めは比較的軽やかなのに、後半になってホップの苦味がしっかり残ります。
なんだろう、この後味。
ちょっと不思議です。
色も、想像していた淡いゴールドより深みがありました。
公式の商品情報によると、IBUは50。
なるほど、アルコール度数は4.5%と控えめでも、苦味まで控えめというわけではないんですね。
「セッションIPA=苦味が弱い」という思い込みを、いい意味で裏切ってくれました。
IPAを得意とするブランドらしい、ホップの存在感が印象的な一杯です。
まるで初めて飲んだような口ふりですが、BEER BULK Jでは1杯目に飲んでましたね。
今回飲めなかったビールも気になる
店頭の冷蔵庫には、今回飲んだ2種類以外にも気になるビールが並んでいました。
例えば「府中 Sweet Potato Stout」。
府中の農園で採れたさつまいもを使い、焼き芋の風味を表現したスタウトです。
「708」は、ホップのジューシーさを前面に出したNorthern IPA。
ほかにも「BONE BONE」「糸どんIPA」「百草団地 Extra Pale Ale」など、気になる名前がずらり。
特に「百草団地 Extra Pale Ale」は、この場所で飲むのにぴったりの名前ではないでしょうか。
冷蔵庫を眺めているだけでも、醸造家の遊び心が伝わってきます。
ただし、これらは訪問時に販売されていた銘柄で、今回実際に飲んだわけではありません。
次回訪れた際には、ぜひ試してみたいところです。
日野醸造所の魅力は、醸造家との距離の近さ
今回、最も印象に残ったのは店主との会話でした。
なぜ百草団地に醸造所を構えたのか。
団地の商店街は今、どんな状況なのか。
そして、ここではどんなビールが飲めるのか。
そんな話を聞きながらビールを飲めるのが楽しい。
クラフトビールを飲むだけなら、都心にも選択肢はたくさんあります。
でも、造り手から直接話を聞き、その場所で造られたビールを味わう体験は、やっぱり特別です。
もちろん、いつ訪れても醸造家とゆっくり話せるとは限りません。
今回は平日の昼間でほかにお客さんがいなかったからこそ、そんな時間を過ごせたのでしょう。
それも含めて、印象深い訪問になりました。

日野醸造所の店舗情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 10ants Brewing/GLaSS HOPPER BREW TEAM 日野醸造所 |
| 住所 | 東京都日野市百草999 百草団地2-8-1号棟107 |
| 最寄駅 | 多摩モノレール「程久保駅」 |
| 駅からの距離 | 約900m |
| 営業時間 | 不定期営業。公式SNSで要確認 |
| 定休日 | 不定休 |
| 電話番号 | 042-510-7673 |
| ビールの提供 | 瓶ビールのみ(訪問時) |
| ビアフライト | なし |
| 席数 | 着席約8席、立ち飲み約6人分(訪問時の概数) |
| テラス | アーケード下の屋外席 |
| フード持ち込み | 自由。近隣商店で購入したコロッケや餃子なども持ち込み可能 |
| 決済方法 | 訪問時のメモでは現金のみ。外部掲載ではPayPay対応の記載もあり、最新情報は要確認 |
| 公式サイト | https://ten-ants.biz/ |
※営業時間や販売銘柄、決済方法は変更される場合があります。
訪問前には営業日を必ず確認!
日野醸造所は不定期営業です。
一般的な飲食店のように、決まった曜日・時間に必ず開いているとは限りません。
駅からも少し距離があるため、訪問前に公式SNSなどで営業状況を確認することをおすすめします。
また、日野醸造所でのドラフト提供は訪問時にはありませんでした。
樽生を目当てに訪れる場合は、隣のフトランテの営業状況も確認しておくと安心です。
まとめ|ビールを飲みに来たはずが、団地の風景まで記憶に残った
今回飲んだのは、爽やかなアップルミントの風味が楽しい「Inagi Megumint」と、セッションIPAながらしっかり苦い「THE Fourth Dimension Blue Label」。
どちらも個性的で、造り手のこだわりが感じられるビールでした。
でも、それ以上に印象に残ったのは、この醸造所がある場所です。
昭和の面影を残す百草団地の商店街。
そこで醸造家と話しながら、瓶ビールをグラスに注いで飲む。
なぜこんな場所に醸造所があるのかと思ったら、理由は「広くてリーズナブルな物件を探していたから」。
その飾り気のない答えも含めて、なんだか好きになりました。
そして、樽詰めしていないビールも瓶なら飲めることがあるという、醸造所ならではの楽しみもあります。
次に訪れるなら、近くのお肉屋さんでコロッケを買って、商店街の餃子も調達して、クラフトビールと一緒に楽しんでみたい。
クラフトビールを飲みに出かけたら、知らなかった街に出会えた。
百草団地の日野醸造所は、そんな寄り道の面白さを教えてくれる場所でした。

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